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乙事組(IE5/Kiura/Pine/MBU/Shinの5人)の共同メディア批評ブログ。ネタバレあり注意!
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18796570.jpg奇想、天を動かす(光文社文庫/ 島田荘司 )
年老いたピエロ、列車事故、死体の消失、老人の突発的殺人など、不可解な謎を追っていくミステリー。偶然、松本清張の後に読んだのだが、著者が社会派ミステリーを宣言していて驚いた。確かに、社会問題は扱われているが、時代の違いか文化の違いか、あまりリアリティを感じ取れない。決して描写がいい加減という訳ではないのだが、時代感覚がずれていて、「砂の器」と同じような微妙な違和感を覚える。社会派ということで、俺の大嫌いな「本格」にありがちな「トリックを成立させるために考えた殺人現場」という印象は薄いが、社会問題と融合しているとは言いがたい。水準レベルは楽しめるとは思う。<55点>



book.jpg本の雑誌血風録(朝日文庫/椎名誠)
椎名誠が創刊に深く関わり、今も刊行されている書評誌「本の雑誌」成立の過程を描いた物語。ドキュメンタリーとエッセイの混じったような不思議な構成になっており、「椎名誠が昔の様子を思い出して書いた」というのが正確な表現なのかも知れない。「本の雑誌」成立の面白さもあるが、椎名誠がサラリーマンからいかにはみ出していったかという様子の方が面白い。いかにも適当に生きていたようでもあり、何かの情熱に突き動かされていたようでもあり、スラスラ読める。ただし、物語にはっきりとした起承転結はなく、突然終わる。実は「哀愁の町に霧が降るのだ」から続く椎名の自伝的小説の一部に属する小説なのだ。この話は「新宿熱風どかどか団」に続く。先に「哀愁~」などを読んだ方がいいだろう。<55点>


neppuu.jpg新宿熱風どかどか団(朝日文庫/椎名誠)
前述の通り、本の雑誌血風録に続く「本の雑誌」に関わる椎名誠の物語が描かれている。血風録よりは、小説に近くなっている気がするので読みやすくなっている。「本の雑誌」が波に乗り始め、そして黒字倒産の危機に陥るあたりまでが描かれているが、前作同様明確な起承転結はない。これは、椎名誠という人物をめぐる100冊以上のエッセイや私小説やSF等の一端に位置するもので、椎名誠を構成する物語のごく限られた一部分を埋めるものである。要するにファン以外はあまり面白くないのではないかと思う。文章は読みやすいので、肩の力を抜いて楽しむ読書には向いている。<50点>


issyunn.jpg一瞬の夏(上)(下)(新潮文庫/沢木耕太郎)
再起を目指すボクサーと、その周囲に集うプロモーター、トレーナー、恋人、ライバル等の姿を描くドキュメンタリー。作者の役割はプロモーターで、その視点から物語が書かれているので、私小説的でもある。何かを成し遂げようとして、中々それが出来ない男たちのしぶとい戦いの物語だ。基本はドキュメンタリーで先が読めないが、ひとつのテーマがそれを貫いているので散漫な印象はない。硬質な文章だが、書き手は「深夜特急」の沢木耕太郎である。この題材で面白くないはずはない。特に20代後半から30代の人間が感じる「ある種の人生に対する飢餓感」が克明に描かれている。先が読めず、とにかく面白いのでオススメだ。ちなみに「クレイになれなかった男」(「敗れざる者たち」所収)の続編的な位置づけなので、先にこちらを読むと冒頭の台詞の意味がよく分かる。
<80点>


c7cc032f.jpgひとつ目女(椎名誠/文藝春秋)
椎名誠のSFはいわゆる三部作(アドバード・水域・武装島田倉庫)が金字塔とされているが、それ以降も同じテイストを持った作品は発表されている。これもその系譜につながる一つだ。武装島田倉庫の平行世界のようだが、微妙な相違点もある。「ひとつ目女」と来て、武装島田倉庫の最初のエピソードを思い出せる椎名SFファンであれば、十分楽しめる内容となっている。ただし一般的な冒険小説でもなく、娯楽小説でもない「奇妙な話」なので、万人向けでないのは明らか。物足りなさもある。「武装島田倉庫」のリアリティと虚実のしびれるような融合はもう二度と味わえないのか。この感想は椎名SF好きなら共有できるはず。<65点>

(KIURA)
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読んどるなぁ
相変わらず読んでますな、特に椎名誠は殆ど読破しているんではないだろうか?個人的には「一瞬の夏」は一度読んでみたい。俺は読む速度が全く遅いので(同じページを意味が分かるまで繰り返すのが原因だと思うのが)、いつも早く読める人を尊敬してしまいます。何かコツでもあったら、教えてくれい!
IE5 2009/02/16(Mon)23:24:36 編集
速読
速読というのは特殊技術で訓練しないとできないらしい。俺も読むのは決して早くないが人より多めの本を消化する理由はこんなところか。
(1)絶え間なく読む(TVは全く観ない。ネット以外は全て本。酔っ払っても小説を読む)
(2)シーンによって読む密度を変える(集中して読まないと分からないシーン以外は楽に読む)
(3)併読する(常に5冊くらい同時に読んでいる。その時の気分に合った本を選べる)。
まあ基本好きなのかもしれん。本は量ではないので、好きな本を何度も読むのもいいと思うぜ。
KIURA 2009/02/17(Tue)09:10:49 編集
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