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もう少しサービスを
~'08ホラーサスペンス特集(3)
原発事故によって双子の姉妹の華織と紗織はバラバラになった。封鎖された30キロメートルの範囲に住む華織は、一種の無法地帯と化した封鎖地区で、同じくそこに住む一風変わった住人達と交流しながら一種のサバイバル生活を送っていた。「原発事故によって封鎖された現代日本」という魅力的な舞台に孤独な若者の殺伐とした生活が描かれる一種のSF青春小説(だと思う)。
前作について
作者に興味を持ったのはデビュー作品の設定だった。ゴミ捨て場に捨てられた少年の残酷な運命をテープに吹き込まれた少年の独白という形で描いた作品(D‐ブリッジ・テープ)だ。しかし、虫を食ったり、自分で足を切断したり、そういった残酷描写が目立つ他は「これだけでは何とも」というのが正直な短編だった。そこで、その次の作品に当たる本作も続けて読んだ。設定は至極魅力的だ。期待は膨らむばかりだった。
分かりにくい設定
物語は封鎖地区で生活している華織の描写からいきなり始まる。異常な設定のSFでは前置き無しで始まるのはよくある事なのだが、これが実に分かりにくい。主人公のキャラクターが掴めないうちから、結構キツイシーンなどで物語が展開するが、感情移入できていないので読者は置いてけぼりになるのである。それならそれで、もう少し面白い見せ方をしてくれたらいいのだが、どうも何を伝えたいのか分からない。結果、何となく残酷な描写だけが上滑りしていく印象だ。それもリアリティがない。
分かりにくい構成
分かりにくい原因はまだある。普通の物語の進行に、別のシーンがかなり頻繁にインサートされるのである。それは事故の様子だったり、紗織の視点だったりするのだが、正直うっとうしい。こんな構成にするくらいなら、はっきりと情景を描写して欲しい。作者としては劇的な効果を狙ったのかもしれないが、ただでさえ分からない情景が余計に分からなくなる。娯楽小説の読者はそれ程親切ではないので、作者の意図をじっくり考えてはくれないのだ。魅力的なキャラもいるのにいつまで経っても感情移入できないのは辛かった。
もう少しシェイプアップを
これだけ魅力的な設定を持ち出しながら、それを生かしきれていないというのが全体の印象だ。前作でも思ったが、周りの社会の反応が余りに不自然だ。ゴミ捨て場で少年が生きていたらすぐに話題になるだろう。原発事故現場でそんなに簡単に一般人が生活できるのか。そんなに社会が混乱していたのか。ネタを整理してシェイプアップすれば、もっと面白かったのにと思うと残念でならない。若い世代の共感が多く、ネット書評でも余り酷評されていないのが不思議だ。しかし、この世間を拗ねたようなある種の孤独は青少年期にこそ共感できるのものなのかもしれない。俺は余り楽しめなかったが。
(Kiura)
評価点:35点 ~サバイバル青春残酷小説
作者はどうも「食べる+残酷さ」に興味があるようで、そこだけリアル。カニバリズムにまで手を伸ばしているが、大岡昇平「野火」のあの何ともいえない冷たく嫌な感じには及ばない。まるでそこだけスプラッター映画だった。