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いわば特大ファール
~'08ホラーサスペンス特集(5)
作家・藤井陽造が「メドゥサを見た」というメモを残して、自らをコンクリートに塗り込めて命を絶つという怪死を遂げた。その異様な死の謎を作家の娘の婚約者が追う。次第に明らかになるおぞましい過去、しかし、真相は「読者」の予想を裏切るものであった。非常に評価に悩む問題作だ。
前半は絶好調
コンクリートに塗りこめて自殺するというインパクト、その謎を追って作家の足取りを追うというスリル、次々と明らかになる過去の惨事の恐怖という、この手の話が好きな人間には堪らない黄金のパターン。しかも極めて軽快な筆致で描かれ、これこそ娯楽ミステリー小説と思わず手を打つ前半戦は素晴らしい。ただ、文字がなぜ太字なのかという違和感に気づくも、この時点では全く意味が分からない。
作家が作家を書く
とはいえ、作家が作家を書くという設定は、余り好きではない。小説家にとっては最も身近な自分の仕事を舞台にしているので、ディティールが描けるのは良いことだが、ミステリーには小説家の登場人物が多すぎる。「またか」というのが正直なところ。あえて奇を衒う必要はないが、主人公もライターという設定なので、そういうありきたり感は他の小説よりは強い。と、思いつつ、ラストまで読んだ所、そんなことはどうでも良くなる。
この落ちはありなのか
ホラー系怪奇ミステリーのトリックといえば、極論すれば「精神的なもの」「呪い(幽霊)」「ウィルス」「宇宙人」など、それ程幅がない。未知のものでも理論的であれば驚きがないし、突飛過ぎるとリアリティがないので難しい。本作もそのどれかだろうと思って読み進めていたのだが、正直、太字のフォントの意味が分かるこの落ちには驚いた。驚いたというか「怒りを通り越して呆れた」方が正確かもしれない。本を閉じて悩むこと15分、これは反則だと結論付けた。
感想はそれぞれ
結末については俺は「無い」と感じたが、読まれた方に評価を託したい。これはこれでいいという意見もあるかも知れない。それに途中までは結構楽しめるのは間違いない。個人的には、作中に詳しく書かれているパソコン環境が1997年の事情を反映していて面白かった。当時はまだ「パソコン通信」だったのだ。フロッピーディスクに文章を保存するというのもむしろ新鮮だが、その内、この辺の描写は若い読者には意味不明になるのかも。とにかく、ミステリー小説の「パターン」としては斬新でした。
評価点:55点 期待通りの前半、結末は……
前半75と後半30を足して2で割るとこれ位の数字に。そういえば、以前読んだ著者の短編集「あくむ」も同じ印象だったような。次の作品を探すかどうか、微妙な評価になってしまった。ちなみに残酷さはさほどありません。
(KIURA)