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映画の密度が違う
アクション大作に見せかけて、とにかく登場人物の心理劇に余念が無い。下手な映画ならこの映画の30分間のプロットでひとつの映画にしてしまいそうだ。緩急自在、複雑な人間心理の交錯と頭の深い所を揺さぶられるような緊張感が非常に素晴らしい。ティム・バートンのバットマンは「面白いとは思うけど、ちょっとなぁ」という感じだったが、この映画には何度も見てしまう人間の闇を覗く深みがある。
ジョーカーの「平均的な身体能力しかないのに極悪」という部分から目が離せない。バットマンも「普通の人間なのに超人」というキャラクターなので、正に対極をなすキャラクター。そして、悪役キャラの方がいつも印象に残るのである。ジョーカーを演じたヒース・レジャーは薬物の過剰摂取で亡くなってしまったらしいが、そりゃこれだけこのキャラに深入りすれば変調もきたすだろう。まさに命をかけた役作りである。悪役らしい側面も素晴らしいが、病院のシーンで何度もボタンを押すユーモア感覚に、思わず笑ってしまった(コスプレとふらふら歩く姿は色々考えさせられる)。
アクションシーンはリアリティ重視と言われているが、結構荒唐無稽だ。バット・モービルはすぐ壊れすぎ。今回はバイクが主役。バットマンは強いのか弱いのか分からないが、すぐにいなくなるシーンで「どこいったんや」と、突っ込みたくなる。もちろん、そういった突っ込みどころは満載で、嫌いじゃないが微妙な造形のヒロイン(マギー・ジレンホール)は、タイタニックのケイト・ウィンスレットに似た違和感が。 モーガン・フリーマンも微妙。バットマンの新兵器も別の意味でヤバイ。変な飛行機で経済界の要人を連れ去って、他国の侵犯にならないか? トゥ・フェースの顔はやりすぎだと思う。子供が泣く。
世間では暗い暗いと言われているが、かなりユーモアに満ちた作品だと思う。実は微妙なヒロインに振られていたバットマンとか、まんまと挑発されて人質にされる警官とか。また、執事役のアルフレッド・ペニーワースの男気と優しさに泣けたり、船が大丈夫でもめげないジョーカーを思わず応援したり。いろんな角度から楽しめる。もう一度書くが、素晴らしい作品だ。唯一、船のくだりはテンションが下がってしまってちょっと頂けないのだが。
最後になぜこれが日本でヒットしなかったのか。そして、花より男子とか容疑者X、相棒等がヒットするのか。文化の違いもあるだろうし、映画を見る観客が「娯楽」を求めているせいかもしれない。しかし、俺はこの「密度」を噛み砕く力が落ちているのではないかと心配になる。画面に描かれているものが全てという、そんな映像・物語ばかりでは、想像力の無い、動物的な人間になってしまう。だから日本は、新・自由主義的な利己的資本主義の罠からは決し抜け出せないのではないかと思う。
たぶん、騙されているのはわたし達で、むしろジョーカーはそれを警告しているのだろう。
評価点:90点
久しぶりの映画感想。何かを書きたくなるぐらいの力は十分に持った映画です。
(KIURA)