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20年前のロシアへタイムスリップ!
江戸中期にロシアに漂流し、苦難の末に帰国した大黒屋光太夫の足跡を、椎名誠が1986年にたどった旅行記である。これは当時、テレビのドキュメンタリーの企画として製作されたらしく、有名な「あやしい探検隊」系のお気軽旅行話ではなく、かなり本格的なドキュメンタリーとなっている。22年前経った今も、ちょっとストロングな旅行記として楽しめる。
シーナリスト?
このブログでは、椎名誠の作品は初めて紹介するのだが、実は数えてみたら家に椎名誠作品が80冊以上あった。これは栗本薫の約170冊(グインサーガ140冊、魔界水滸伝20冊、その他10冊ほど)に継いで多い。まあ、多ければいいというものではないのだが、これだけ読んでいるということは、立派なシーナリスト(?)を名乗れると思う。椎名作品は、エッセイ、旅行記、小説(自伝的小説とSF・超常小説)と大別できるのだが、この作品は旅行記、それもかなり気合の入った部類である。
軽妙な文章
椎名作品の魅力は、やはりかつて「昭和軽薄体」と称された独特の文体であろう。椎名氏の素朴な人柄と「実感」が伝わってくる。このところ、椎名氏風に言えば「わしホンマに勝負したるけんね」風のギラギラしたやる気満々のサスペンスやミステリー、ホラーばかり読んでいたのでちょうど良い軽さといった感じた。しかも、ソ連と呼ばれた時代のロシアはミステリアスで非常に面白い。
3つの構成
冒頭はアリューシャン列島のアムトチカ島から始まる。ここは、歴史上最も大きな核実験が行われた島で、ガイガーカウンターを持ちながらテント設営の場所を探しているのがかなり凄まじい。また、風が激しく木が一本もないのである。この本は、この「アムトチカ編」、零下60度になる冬の「シベリア編」、そして夏の「シベリア再訪編」という構成になっている。どれもなかなか興味深いが、やはり零下60度の世界を旅するシベリア編の自然と、摩訶不思議な社会情勢の描写が面白い。
地球温暖化
それにしても気になるのは、その後ソ連はどうなったのであろうか、ということだ。例えば、当時はシャワーも満足に出ないし、レストランも注文から料理が出てくるまで1時間以上かかったようだ。今もそうなのだろうか。そして零下60度の世界は、今もきっちり60度なのだろうか。前に永久凍土が溶けているという話を聞いたことがあるので、多分、大きく様変わりしているであろう。社会情勢もずっとよくなったはずだ。国際情勢にきわめて疎い俺に何か今のロシアを知るお勧めの本があれば教えて欲しいところである。
評価点:74点
ちなみに、「ロシアにおけるニタリノフの便座について」という本にもこのロシア編の記事が出ている。椎名氏の本は数が多いのでエピソードがたぶっている事もあるが、逆に関連が分かって面白い面もある。あと、恐ろしいことにYouTubeでこのシベリアのドキュメンタリーが観られる。えらい時代になったなぁ、と改めて思った。