乙事組(IE5/Kiura/Pine/MBU/Shinの5人)の共同メディア批評ブログ。ネタバレあり注意!
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面白い小説はまだまだある
「半七捕物帳」位しか知らなかった岡本綺堂だが、題名に引かれてこの「玉藻の前」を読んでみた。玉藻の前といえば、妖怪ファンにはお馴染みの九尾の狐、そして那須の殺生石。文学全集にも名を連ねる岡本綺堂がそんな「キワモノ」を題材に! 結構ワクワクして読みました。
出だしは地味な展開だったが、これが実に面白い。古文調だが、読みやすく、すぐに物語に引き込まれる。しかし、基本的な物語構造は悲恋である。例えは俗だが、立場の違う二人が惹かれあい、やがて悲劇を迎えるロミオ&ジュリエット方式だ。こんなことを言うと「甲賀忍法帳」(今読んでいる)みたいだが。
物語は非常に不安定で、現代的な予定調和を見ないところが面白い。地味な展開が続くかと思うと、突然、妖怪が跋扈する幻想的な描写が入る。主人公が破滅しそうになると救われ、救われそうになると破滅する。純愛と見せかけ、いきなり主人公がとある姫に惚れたりする。大団円に落ち着くと見えて、まだ何転かする。率直に言って、小説が上手い。いや、無名の書痴が偉大な先達に向かって失礼だ。
九尾の狐、陰陽師、術比べなど、ライトノベル的要素を内包しながらも、これほど奥の深いエンターテイメントに仕上げるとは、岡本綺堂恐るべし。結構、小説は読んだつもりだったが、まだまだ世界は広い。怪談集も面白そうなので買ってしまった。妖怪好き、奇譚好きには是非オススメ。ちなみに青空文庫でも読める(玉藻の前)ので、ぜひどうぞ。
(KIURA)
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