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色んな所が微妙に空振り
~'08ホラーサスペンス特集(2)
前作・密室の謎を解く正統派ミステリー「硝子のハンマー」で活躍した弁護士・青砥純子&防犯ショップ店長(実は泥棒?)・榎本径が活躍する短編集。表題作以外に「黒い牙」「盤端の迷宮」「犬のみぞ知るDog knows」の4篇を収録。「新世界より」の勢いで最近刊行された本作も読破。作者がインタビューで語る「知的遊戯としての」直球推理小説集だ。
「硝子のハンマー」前提
独立した短編集であるが、主人公達の設定部分がかなり省かれているので「硝子のハンマー」を読まないと主人公達のキャラが掴みきれない。基本はトリックで勝負しているので、無理に読む必要はないが、それでもやはり前作を読んだほうがスムーズだ。ほぼ全編人が死んで、二人が推理するパターンの繰り返し。テーマ的には「狐火」は田舎の暗い家、「黒い牙」は蜘蛛、「盤端」は将棋、「犬のみぞ」はアングラ演劇になっている。前半二つはホラー調の要素があるが、それ程怖くはない。
重量不足
貴志祐介は惰性で作品を書かない分、かなりの寡作(デビュー12年で8作)だが、その分一つひとつのクオリティが高く、過去作品と類似がない上に面白いという離れ業をやってのけている。要するにマンネリとは無縁だ。前回紹介の「新世界より」もオリジナルティがある上に娯楽としても面白いかなりの力作だった。それに比べると本作品は、肩の力が抜けているというか、ワン・シチュエーションミステリーというか、要するに作品に重さがないのだ。読後、かなり拍子抜けしてしまった。
作者の持ち味が生きない
さらに、貴志祐介は人間そのものの怖さとサスペンスフルな展開が持ち味だが、この短編集は、軽妙さとトリックそのものが売り。俺としては作者の長所とこの作品の作風が合っていない。決して読めないほど下らなくはないが、これぐらいの話なら別の作家でもいいと思えるレベルになってしまっている。「黒い牙」は設定自体は秀逸なのだが、この内容なら、もっとドタバタコメディ化してもいいと思う。逆に「犬のみぞ知る」は無理に砕けすぎて、笑いどこの分からないコメディになってしまった。どこか狙いと効果がちぐはぐで空振り気味なのだ。
悪くはないので
と、いうわけで不満ばかり書いてしまったが、裏を返せば癖のない仕上がりになっているので、気軽な読書向きといえよう。読んだ後しばらく帰って来られない本ばかりでも苦しいし、ディティールはいつも通り緻密なので十分楽しい一冊である(タランチュラには本気で興味が湧いた)。ただ、願わくば作者には、読んでいて脂汗が流れてくるような力の入った作品で勝負して欲しい。ファンとして切なる願いである。
(Kiura)
評価点:55点
まだ新書しかないので、貴志ファン・興味を持った方も文庫まで待っても全然OK。逆に「新世界より」は上下で4000円もするが、ぜひこのタイミングで読んで欲しい。賛否両論あると思うが。
因みに10冊くらいは、ホラー・サスペンス特集を続けてみたい。