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乙事組(IE5/Kiura/Pine/MBU/Shinの5人)の共同メディア批評ブログ。ネタバレあり注意!
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shin.jpg怪奇系エンターテイメントの傑作!
~'08ホラーサスペンス特集(1)
時は未来。人間たちは「呪力」という超能力を手にしていた。その力によって、様々な文化を生み出し、バケネズミという奇怪な化け物まで使役するようになっていた。しかし、「呪力」は世界を破壊するほどの可能性を秘めた力だった。余りに強力な理からを得た時、人はいったいどうなってしまうのか? 兵器に限らず、車両や携帯電話等あらゆる便利な道具、DNAまでも自在に操る「余りに強力な力」を持った現代人に対する強烈な警告。「黒い家」「青の炎」等で知られる貴志祐介氏によるSF娯楽大作だ。

世界の逆転
この小説の核は世界をひっくり返すことだ。これはSFの常套手段であり、醍醐味でもある。この小説は2回ひっくり返るのだが、最初にひっくり返るまでは長く感じるだろう。ただ、逆転を楽しむためには平和な情景が必要であるのでこれは仕方ないか。作者はホラー小説で世に出たこともあって、話が進むにつれてそれ系の描写が加速していく。特に歴代の皇帝の悪行などは、想像すると夢でうなされそうな位だ。この辺から悪趣味全開でこの手の小説が苦手なら「引く」だろう。ここで面白いと思えればラストまでほとんどだれない。

ゲーム的要素
作者はかなりのゲーム好きだと思う。多分、コンピューターゲームもやるが、囲碁や将棋もかなり好きなのではないかと思う。上巻の中盤もそういった知識を生かしたちょっとした戦争シーンになっており、かなり面白い。登場人物はやや類型的だが、敵役のバケネズミの造形には非常に惹かれる。超能力というのはSFとしてはかなり陳腐化したテーマだが、この敵役のおかげで新しい面白さを生んでいると思う。無敵の力に弱点があるというのも、どことなくゲーム的だが。

気になる点も
全体的には文句なく面白いし、読後感も色々考えさせられてただの娯楽小説ではない。もちろん、気になったこともある。全体的に粗い感じがするのである。「呪力(超能力)」の使い手の死とかかなりあっけないし、超能力の発露の仕方もいまひとつ不明瞭な所もある。これは核となる部分だけに勿体ない。また、回想形式なので「この後、こんな悪いことが起こるとは」という無駄な脅しがかなり多い。余り連発されると白けてしまう。あと、主役の文章が女性とは思えないほど硬質だとか、青春・エロシーンにリアリティがないとか、作者の向き不向きを感じる部分もある。

奇怪な未来世界
貴志祐介氏は「黒い家」から始まって単行本になっている作品は一応全て読破した(寡作なので本作を合わせても全8作しかないが)。貴志氏の特徴は、完全な娯楽志向と緻密な展開、そしてかなりのダークな描写である。表面的な残虐描写もそうだが、心理的にも追い詰められるのである。本作は残虐描写にある程度の耐性があるなら、間違いなく読んで損はない傑作だ。ただ、ラストのオチでどうしても引っかかるのは、彼らに出来たのなら、彼ら以上に人間であった以前の時代にも可能だったのではないか? ということだ。とはいえ、最後までノンストップな奇怪な未来世界を堪能できて大満足であった。
(Kiura)

評価点:85点
小説を読んで久々に頭が痺れた。一時はお蔵入りかと思われた貴志祐介のSFだが、待った甲斐があったと思う。マニアックな内容だが、凡百の娯楽小説よりもっと評価されてもいいと思う。

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久々の
書評やな。Kiura氏の書評がもっとあれば良いと思っていただけに歓迎!俺も色々と読んでいるが、殆どが古典なもので・・・。でもこの作品は面白うそうだ。
IE5 2008/06/19(Thu)00:46:37 編集
しばらくこの路線で
書評としては古典でも何でもええと思うぜ。俺もホラー・サスペンスを中心に古今東西の面白そうな本を紹介してみたい。「新世界より」はマジでお薦め。映画化はかなり難しそうだが映像で観てみたい。ただし、忠実に作ればR20指定は間違いない。
Kiura 2008/06/19(Thu)11:18:37 編集
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